■白神山地の概要

 

白神山地の概要    ~内容を知ることで訪問の際の見る目に違いが・・・~

 

〇地盤、地形、標高     ~知ることで面白さや危険さを知ろう~

 ・日本は中国大陸から分離し、その後、日本海の隆起により当山地ができた地盤であることから海の堆積物地層でもろく崩れやすい地質である。青森県は新生代第4紀に岩木山、八甲田山が火山活動ででき、第三紀の地層が青森県全土を広く覆っているとされ 白神山地はその後の中生代白亜紀(1億4000万年~6500万年恐竜時代)の石灰岩、花崗岩(御影石、ゴマ石等)と新生代第三紀中新生(6500~180万年マンモス時代)の堆積岩(火山噴火物、泥岩、砂岩)、貫入岩石(流紋岩ほか)等で構成されているとされます。堆積岩は非常に脆弱で崩れやすい土壌であり、今も山地では隆起活動が起きているとされ、山地の標高は1000m前後とそんなに高くない山々だが、30度以上のⅤ字形の深い渓谷地形が半分以上を占めるため崩壊がよく起きる。 遺産後で大きなものとして大川のタカヒグリという場所の手前が2001年に崩壊し、一時堰き止め湖となったが、その後の雪解け水等で元の河川となっています。また翌2002年4月に向白神岳の山頂手前の通称「静御前」と呼ばれる反対側の北西側斜面が大きく崩れ笹内川の東北電力の砂防ダムや当河川が大岩・土砂で埋め尽くされ、下流域まで及んだ。大掛かりな工事が行われたが、今なお大雨等で土砂崩れが続いている。山地内各河川の枝沢等では、砂岩から.ホタテやカキ仲間の化石が見つかり、西海岸一帯に各断層があるという。観光名所「千畳敷」も1793年に隆起したものであり、「十二湖」は1704年の地震で大崩が崩壊しできたものとされています。

 

〇森林       ~ブナだけじゃない!いろんな木が生えている!~

 広大な純度の高いブナ林が原生状態のままあるとして世界遺産登録されたが、前述のごとく崩急峻壊が繰り返されてきた地であり、巨樹巨木ばかりでなく若木も多い。白神山地のブナ林は推定12,000~8000年前に誕生したと言われる。仮に8000年と仮定して400年づつ生きていたとしても20回の世代交代が行われで来たことになる。当山地にはブナばかりでなく、幹回り日本一に登録されたカツラ(写真の項)や、天然マイタケ要因のミズナラ、ダケカンバ、サワグルミ、トチノキ、イタヤカエデ、ハウチワカエデ、コシアブラ、オオバクロモジなど多種多様な樹木の森であり、これが多くの動植物、菌類等がはぐくむ要因と推察されています。つまり、まだまだ全容解明されておらず、各種調査が行われている。ブナの祖先は、第三紀周北極植物群(約5,000万年前)の中新生前期の「アンチポフブナ」から「ムカシブナ」と代わり、そして「ブナ」になったとする説もあり、その「アンチポフブナ」の化石やメタセコイヤ、ナウマンヤマモモ等の古代植物化石が当山地で見つかっていることからも純度の高さがうかがわれます。


〇植物     ~自然の中で見る植物は格別、未知の山・これから何が発見されるか?~

  青森県由来の名前がついた花として、アオモリマンテマ、ツガルミセバヤ、シラガミクワガタの固有植物があります。アオモリマンテマはその後、津軽半島や秋田県森吉山等でも発見されています。植物は500種以上の確認がされていますが、八甲田山等のように広々とした地形がないことからも群落は少なく目立たない。うち、コケ植物が200種近くあるという。


動物・鳥類・昆虫・爬虫類・両生類   

   ~遺産地域はもちろん、近隣山地で見られる! 隣接津軽国定公園は北限木・昆虫の宝庫~

動物は、山地固有種は発見されていないが、人里の果樹・畑を荒らすニホンザルは増え、ニホンカモシカ(特別天然記念物)、ツキノワグマ、ホンドテン、タヌキ、キツネ、ニホンリス、アナグマ、ヤマネ(天然記念物)、ムササビ、各種コウモリなど哺乳類35種が生息しています。


鳥類は、前述のとおり青秋林道建設反対運動時に発見された貴重な鳥「クマゲラ」(天然記念物)が生息するほか、絶滅危惧種のイヌワシ(天然記念物)、オオタカ、クマタカのほか、河川で繁殖しているシノリガモやカワガラス、ミソサザイ、ヤマセミ、十二湖界隈で多くのカメラマンが押し寄せるアカショウビン等野鳥94種が確認されています。

昆虫は、シラカミクワガタダニなどの固有種やブナの葉を食べるホノホハマキ、フジミドリシジミ蝶など約2200種確認されています。また、秋田県が北限とされていたヤマトシジミや南方系のクロアゲハ、コカマキリ、オオゴキブリなども温暖化の影響か見られるとしている。


 爬虫類はニホントカゲ、ニホンカナヘビ、ヤマカガシ、ニホンマムシなどや9種、両生類はクロサンショウウオ、トウホクサンショウウオ、カジカガエル、アズマヒキガエル、モリアオガエルなど13種が生息しています。 

                                 ※参考図書*青森県自然保護課「白神山地の自然」ほか


 また微生物類、パン酵母として冷凍にも強いことからイースト菌に代わって利用され出している野性味の強い「こだま酵母」「白神酵母」などの菌が発見されています

 


★ブナについて

 

 ブナについて    ~ブナの不思議、ブナの実は熊だけでなくブナパンもおいしい~

  ブナの森は水瓶とも言われ、保水力が高い。それはブナの葉は分解が遅いので、森を歩くとふかふかするほど葉が積み重なっているため、保水し、ろ過された水はおいしいのです。

 青森市は、水道水で全国一おいしいて水に輝いています。八甲田山のブナやアオモリトドマツ、ミズナラなど各種の樹木が生い茂り、ブナが中心を占めています。

 例えば、カエデは葉が薄く、メイプルシロップのカエデ族は糖分や芳香があり、虫やミミズに好まれるという。ブナはセルロースやリグニンが強固で虫も歯が立ちにくく食べにくいとされ、セルロースやリグニンを分解するキノコ菌類がまず役割を果たし、柔らかくなってから虫も食べるので一定期間を要するのだそうです。ブナの木は、胸高直径40㎝で約10万枚の葉、60㎝で36万枚の葉をつけるという。虫食いは別として秋に大量に落葉し、毎年続くのだからフカフカするほど雨水を貯めるのです。しかし、適度のフカフカでそれ以上にならないようです。だから、分解が早い葉と遅い葉が混じりあって、ほどよい土ができ、養分がいっぱいあるろ過水が川に流れ、海の魚や海藻に好影響をあたえるのだそうです。

   なぜ橅(木で無い)という漢字になったのだろう? ナメコやカヌカ(ブナハリタケ)などたくさんのキノコも育むし、木肌はやさしく滑々し、木目もやさしい点線のような模様です。

 ブナは、ドイツでは“森の土の母”というそうで、それをもじったのかどうか白神山地・津軽峠に“マザーツリー”という巨木があり、観光名所となっています。2018年の夏に台風の影響で上部が折れてしまいました。しかし、梵珠山や奥入瀬渓流近くの巨木は元気に生きています。

 ブナは、100年くらいは、他の樹木に比べあまり大きくなりませんが、100年くらい過ぎると成長が活発になるといい(上木に被圧される影響とか)、150年くらいで高さの成長ピークとなるが、胸高直径が一般的に50cm程度で(環境により個体差も大きいという)だが、200年を過ぎると成長は鈍化するが、胸高直径は300年で1m、400年で寿命(というのが長野県カヤノ平での一般的統計データとのことです。 

 ブナは豊作凶作の年間差が大きく、5~7年とも10年とも諸説があるり、豊作年では1本の木に5~20万個の実を付けると言われ、1㎡あたり300本も実生が出ることもあると言われるが、一生で500万個つけたとしても、そのうち1個が成木となればいいとされています。ほとんどはネズミや熊に食べられたり、地面で腐ったり、芽を出し実生や低木となっても笹や他の木の陰で日が当たらず枯れ死んだりするようです。 

 ブナは日本海側に多く、笹と共存しているとも言われ、太平洋側に多いイヌブナと異なる。受け継いでいるかどうかわからないが、1500万年前の「アンチポフブナ」やその後の「ムカシブナ」を祖先とするとも言われています。

  白神のブナの木肌は白っぽい幹肌に灰青色や暗褐色の斑紋が特徴だが、この斑紋は苔や地衣(藻、カビ菌)によるもので、雪国の白っぽい木肌は東北のブナの特徴という。なお、同属の兄弟に「イヌブナ」という葉は似ているが木肌が全く違うことから別称クロブナとも言われる木は太平洋側に分布し、住み分けされています。

  

 

 ブナアオシャチホコという虫が葉を食い荒らしますが、集団的に涸れ死するのは少ないという。ブナアオシャチホコの屍骸にキノコが生え、一時中国の体育選手が食した “冬虫夏草”類になるとも言われ、八甲田山で掘りだしたことがあります。ブナ林だけに住むフジミドリシジミという蝶もいます。ちなみにミドリシジミ群はコナラ属を食樹とするが、フジミドリシジミだけブナを植樹にするという。

 

 

 

 なお、青森県内にはブナの幹回り日本一ブナが、青森市の「県民の森・梵珠山」にある。幹回り8.62m、樹高27.5m推定樹齢400年、のほか同地には6.80mの木もある。また、十和田焼山には6.01mの「森の神」、白神岳登山口の5.3m「山の神」、十二湖の「まほろばのブナ」5.18m、くろくまの滝付近に5.14m、津軽峠の「マサーツリー」4.75mと県内に巨木が多い。

 ブナの実は菱形で、虫食いなしの実を集め皮をむくのが大変だが、炒ってピーナッツ代わりに食べるともおいしく、友達がパンに混ぜてブナパンを作ったら好評だったという。

 

 

 

 

  整備中

ブナあれこれ

・ブナは、欧州では「森の聖母」、ドイツでは「森の土の母」、デンマークでは国の木として愛されています。欧州では針葉樹が多く、葉は樹脂を含み分解が遅いが、広葉樹のブナは針葉樹に比べ、落葉、落枝が分解が速いので土壌を肥沃にする木としての名付けと考えられる。

  しかし、広葉樹の中では、桜やカエデ類に比べ遅い分解の葉だという。桜やカエデ類は糖分、芳香があり、ブナに比べ葉厚も薄く、虫やミミズが食べやすく好まれるという。

 ブナは、セルロースやリグニンが強固で、落ちてすぐの葉は虫が食べにくい。セルロースやリグニンはキノコが分解するので、分解されるまで月日がかかり、適当にやわらかくなってから虫たちが食べるので、その間、毎年大量の落葉が積み重なり、「緑のダム」とも言われる水分保持、ふかふかの森を形成するのです。

・ブナは、水分が多いため、表皮には地衣類(藻とカビ)が繁殖し、白灰色にまだら模様をつくり、滑々する肌触りとともに何か原生林の雰囲気を醸し出す。特に雪国のブナの木肌は白っぽく美しいという。ブナには太平洋側にあるイヌブナとは区分される。

 

 

 

 

 

クマゲラについて   絶滅危惧種・巣には近づかないように!  巣穴に違い!

  白神山地で、クマゲラが発見されたのは1983年10月8日で、世界遺産に指定される10年前です。青秋林道とともに弘西林道(現白神ライン)から赤石川の奥地への奥赤石林道の建設反対のため現地調査をしていた根深誠氏と工藤父母道日本自然保護協会保護部長、泉祐一秋田県鳥獣保護センターほか学生と櫛石山の現通称クマゲラの森でクマゲラと巣穴を発見した。この発見が青秋林道・奥赤石林道建設反対運動の象徴ともなったと言われる。クマゲラは体長約45cmの日本最大のキツツキで、北海道にはある程度生息しているが、本州では山形、岩手、秋田、青森で発見されているが、現在のは岩手八幡平、秋田県森吉山~玉川、白神山地、南八甲田だけと、幻の鳥と言われる所以で、三県で20羽に満たないだろうと言われています。営巣は、北海道ではトドマツ、アカエゾマツ、スギ等の針葉樹や広葉樹のヤマモミジ、ミズナラ、ハリギリ、シラカンバ、ダケカンバ、アサダ、カツラ、ケヤマハンノキ、シナノキ、ドロノキ、イタヤカエデ、オヒョウ、ブナ、ヤチダモ、ホオノキ等広範囲に及ぶが、本州ではブナより確認されていない。北海道では、ねぐら木は枯れ木の空洞化した木も利用されているようだが、本州ではブナより確認されていなく、すらりとした下に枝がない木が使われているという。これは巣にヘビや動物が登りにくいからではないかと言われています。クマゲラの体の特徴は、体全体が真っ黒でカラスのようであるが、頭が赤いのが特徴で、メスは頭半分、円を描いたような感じで、オスは頭全体が赤いベレー帽をかぶった感じ。餌は、北海道では昆虫、クモ、種子果実,葉などいろいろ食べているようだが、白神山地ではムネアカアリ、トビイロケアリより巣穴から確認されていない。鳴き声は、キャーとかクウェクェと鳴き、ねぐらではフィと口笛のような、飛翔時はコロコロと鳴くとのことです。白神山地での営巣は何か所か確認されていたが、最近は奥赤石等以外に見かけないという。一般的に100羽以下になると範囲、近親等各種問題から種の維持が難しいと言われ、絶滅危惧種となっています。

                                           (参考:「日本のクマゲラ」 藤井忠志 著)

 なお、素人作品だが筆者のバードカービング作品が「白神遺産センターに寄贈展示しています。

 

■白神山地世界遺産と津軽国定公園地域区分

  白神山地の白神岳は世界遺産の核心部と津軽国定公園とで東西分離している。笹内川、追良瀬川斜面は核心部であり、避難小屋、トイレ、登山道西側(日本海側)は津軽国定公園となっている。

 津軽国定公園については、ほとんど全体の詳細な説明やパンフレット、prを見たことがない。十二湖や岩木山の点としての紹介があるだけで、津軽国定公園の設定範囲の理由、津軽半島を一周し、離れた岩木山とセットなのかについてよくわからない。ここでは、白神岳の十二湖コースである稜線の一つ大峰岳までの東側斜面は緩衝部で、崩山や十二湖、白神岳のマテ山、登山道は津軽国定公園ということであり、暗門の滝は県立自然公園となっている。

 津軽国定公園は昭和50年3月31日に指定されており、また「くろくまの滝を含む赤石渓流」と「暗門の滝」の県立自然公園は昭和56年7月に先に指定されていることから、これを外して世界遺産としたものと思われる。

 つまり、白神山地の一部として最も来訪客が多い「暗門の滝」「十二湖」は自然公園なのである。

自然公園とは、国立公園、国定公園、県立自然公園の3種がありね我が国の素晴らしい自然風景地として指定されている。ちなみに青森県内には、十和田・八甲田地域の国立公園、津軽国定公園のほか、県立自然公園は「赤石渓流・暗門の滝」「岩木高原」「黒石温泉郷」「芦野池沼群」「浅虫夏泊」「下北半島」が指定されている。

 予算や管理区分がそれぞれ違う。最も県の観光課や自然保護課の業務区分も判然としないものも見受けられる。